第54夜(2026年8月17日) 四字熟語


 フライパンの表面加工の部分が剥がれそうになつたので、新しいフライパンを買つた。表面加工の無い昔ながらの鉄鍋のフライパンである。

 使つてみると、肉も野菜も焦げ付く。少し油を塗ると良いというので油を買つて塗つてみたけれど、結果は同じであつた。やつぱりテフロン加工の鍋を買えば良かつたと後悔する。



 毎回焦げ付くので、毎回焦げた味のカレーを食している。たわしで鉄鍋を洗う度に、昔キヤンプへ行つた時の飯盒炊爨を思い出す。いや、飯盒炊爨という漢字は、全く思い出さなかつた。パソコンの変換で簡単に出たけれども、ものすごく難しい字を使う四字熟語である。



 四字熟語は、会話では中々使わないけれども、文章を書く時は便利である。何となく意味が通るし、何となく語呂が良く読み易い文章になる気がする。

 四字熟語の成り立ちを調べたところ、大きく中国の故事に由来する故事成語、仏典に由来する仏典由来語、その他の日本の日常生活に纏わる日常生活語に分かれることが判つた。故事成語以外は今適当に名付けた。すまぬ。



 という訳で、四字熟語を多用して、このお盆休みの日記を書いてみやうと思う。



 そもそもお盆というものは死者が生者の世界へ帰るという永劫回帰の物語であり意味深淵である。決して一朝一夕の物語ではない。日常茶飯事を排して未来永劫の世界を覗き見るものであり、私は勇猛果敢に新幹線の切符を予約しやうとしたけれど、全て売り切れであつたので、苦肉之策として高速バスの切符を予約した。



 おや、日常茶飯事は五文字だつた。苦肉之策は一応四字熟語らしいけれども、苦肉の策と書く方が多い、苦しい四字熟語である。高速バスは四字熟語に含まれるのであらうか、一寸判らない。



 高速バスに乗る当日は、折しも傾盆大雨、鉢を傾けて水をこぼすやうな激しい大雨が降り注ぎ、千葉に車庫がある高速バスは二時間待つても新宿の乗り場に来ない。聞けば千葉では車両が水没するやうな激しい豪雨であつたさうである。



 傾盆大雨は趣のある四字熟語であるけれども、あまり聞かない。集中豪雨で良さそうに思う。車両水没でも意味が通じさうである。



 完全徹夜して、満を持して始発の新幹線で帰省した。臥薪嘗胆という程の風情ではない。新幹線の席で普通に寝た。寝易い。高速バスよりも寝易い。始発の新幹線で帰省するのは思考の外であつた。来年からは思考の内に入れておこう。



 完全徹夜を省略して完徹というのは聞くけれども、元の語である完全徹夜は意外に聞かない。満を持しての意味を有する四字熟語は臥薪嘗胆であるらしいけれども、薪の上で寝て苦い胆を嘗めるのは現在では考えられない苦行であり、使い辛い語になつてしまつている。思考の外を表す奇想天外という語も、ノーベル賞クラスの大発見でもしない限り、使い辛いやうに思う。



 ここまで日記を書いてみて、四字熟語を駆使した割に、まだ帰省先に着いてもいない。この後、墓参りオブザイヤー、焼き肉を挟んで離島での海水浴オブザイヤー、姪つ子とのトランプオブザイヤーが続くのだけれど、もう四字熟語は疲れたから止めておく。



 昨年は離島で虫に刺されて半年以上治らず往生した。今年は刺されなかつたので僥倖であつたけれども、深夜バスで今朝方東京へ戻つて気付いたのは、手持ちのお金があまり無いことである。今年の前半はいろいろと遣い過ぎただらうか。今年の後半は倹約しなければならない。カレーの牛肉を豚肉にしてみた。



 この状況を四字熟語で何と言うか調べてみたところ、質素倹約と出た。うん、やつぱり四字熟語は便利である。






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2026/8/17
文責:福武 功蔵