第39夜(2025年8月13日) 村人問答


 歩いていてどうも人の流れが悪いなと思うとき、列の先頭にはスマホを見ながら歩く人がいる。歩きながら情報収集に勤しむ現代の二宮金次郎である。二宮金次郎が偉いのは穴に落ちないところであらう。ギリシヤの哲学者タレスは星を見て穴に落ちたと伝えられている。



 のつけから本題と無関係な事を書いてしまつた。書きたかつたのは村人問答である。村人というのはドラゴンクエストというゲームの登場人物で、主人公に対し、はいといいえの二択の質問をするけれども、いいえという返答を決して許さない人物である。村人の特徴として、何度繰り返しても同じ返答をするというものがある。

 村人が村人と問答すると、双方とも同じ返答をして話が進まなくなる。結局はどちらかが折れるしかない。うちの家の者は村人問答が得意であり、決まつて負けるのは私である。或いは私が弱いのかもしれない。



 今日のお昼はラーメンにした。自動券売機で食券を買う。私はボタンを押してメニユーを選んでから千円札を券売機に入れた。券売機は千円札を返金してきた。千円札が新札だからなのだらうか。私はあいにく新札しか持つていない。再びボタンを押してから千円札を入れる。券売機が千円札を返金する。

 何度かやつているうちに、券売機としては、千円札を入れてからボタンを押して欲しいらしいことが私にも判つてきた。どうやら私は券売機と村人問答をしてしまつていたやうである。券売機としては、千円札が入つた後、一定時間ボタンが押されないので返金するのであらう。私にも言い分があり、スイカやクレジツトカードを使う場合はボタンを押してからスイカやクレジツトカードをタツチするのであるから、現金も同様でよいはずである。しかし私は村人問答に弱いので、自ら折れることに決めた。決めたけれども、私の後ろにいつの間にか行列が出来ている。私は行列のプレツシヤーを感じて、千円札を入れた後に、食べたかつた味噌ラーメンのボタンではなく、その隣のボタンを押してしまつた。隣は辛辛ラーメンである。店員さんに辛さを尋ねられて、一辛にした。一番辛くない辛さであるけれども暑い日でもあり、かなりの汗をかきながら頂くことになつた。



 私は村人問答にも弱いけれども、プレツシヤーにも弱い。どうすればプレツシヤーに強くなれるのだらうか。現在アメリカの大リーグで大活躍している大谷選手は、プレツシヤーに強くなる方法として、一喜一憂しない、とノートに書いたさうである。

 我が身を省みるに、一喜一憂しかしていない。道理でこの歳になつても何の成果も残していない訳であらう。



 まあ考えようではある。未来の自分に期待できるのは、有り難い事なのだらうな。






新着順一覧 − 日付順一覧 − 前を読む − 次を読む − トップページ


2025/8/13
文責:福武 功蔵