新宿の区役所で用事があつたので、ついでに新宿三丁目の追分だんごの喫茶に家の者と二人で並んだ。お八つ時であり小一時間、冷房が効ききらない店舗入り口で並んだ。お土産には団子を買つた。ここの団子は美味い。追分だんごは以前は新宿駅前の小田急にも店舗があつたらしい。現在は小田急の建て替えのため、新宿三丁目まで行かなければ買うことができなくなつている。ぐぬぬ小田急め。小田急の建て替えは迷路のやうな新宿駅の工事と一体になつているのか、もう数年経つけれども一向に進まず東京のサグラダフアミリアの様相を呈し始めている。
追分だんごを出て、日本橋へ行くことにした。行く途中の地下鉄で電車が発車するときに、駅員が大声で、電車に触らないで下さいと言うのが聞こえた。可成りの大声であつた。誰かが電車に触つたため発車が遅れたやうであるけれども、電車のドアは閉まつているし電車とホームの間にはホームドアもあるのであるから、電車に触るのは一寸可笑しい。余程触りたかつたに違いない。
私が電車お触り犯人の胸の内を想像してほくそ笑んでいると、走り出した電車の中で、発車間際に電車に触ると危険であるという車掌の訓示が流れた。低い声で訥々と喋つている。どう考えても電車に触つたお触り犯人は電車には乗つていないから、車掌は堪えきれない胸の内を訥々と述べているのであらう。私がさう言つて私と家の者は顔を見合わせて笑つた。
日本橋に着いて高島屋のデパ地下のフオシヨンというフレンチ惣菜の店で買い物をした。このフオシヨンも以前は新宿駅前の小田急にも店舗があつたらしい。ぐぬぬ小田急め。東京のサグラダフアミリアめ。まあ追分だんごにせよフオシヨンにせよ、繁盛しているのだから小田急に拘らずに店を出して欲しいのだけれど。
帰りに乗つた山手線では、駅員が大声で、ホームドアに触らないで下さいと言つていた。我々が乗る反対側の線路の電車だつたので我々はその電車に乗つていなかつたけれども、きつとその電車の車掌は堪えきれない胸の内を車中で訥々と述べるのであらうな。
最近、若い人に言いたいのは、やはり結婚はした方がいいということである。結婚すれば、堪えきれない胸の内を聞いてもらえるし、思い付いたボケを聞いてもらつたりツッコミを入れてもらつたりすることもできる。所謂ボケ殺しにより時折ボケが殺されるとしても、全体から見れば被害は小さい。
うちの家の者も私が思い付いたボケを放置することがある。所謂ボケ殺しである。日曜日の午後三時頃、新宿三丁目付近において、私のボケが殺された状態で発見された。蒸し暑い中、追分だんごの喫茶の行列に並んでいた最中のことであつた。小一時間並んだ甲斐があり、喫茶ではかき氷と餡蜜を食することができた。日曜日は翌週に備えて身体を休めて栄養を付けなければならない日であり、家の者も例に漏れない。やむを得ないことであらう。
さてどのやうなボケであつたかは思い出せないし、私の名誉のためには思い出さない方が良さそうであるから、ここで筆を擱くこととする。