第35夜(2025年5月16日) ランラララン


 ゴールデンウイークの旅行で食べ過ぎたのか体重が増えた。サッカーをしても味方から動けていないと言われる。事務所の体重計に電池を入れて体重を計つたら七十五キロメートルもあつた。過去最大の体重である。減量しなければならない。

 減量の方法は食べないというだけである。幸か不幸か仕事が滞留して毎日忙しい。腹が減つたと思いながら仕事をしているといつの間にか夜になる。夜もあまり食べなくていい。月曜日に七十五キロもあつた体重は、木曜日には七十二キロにまで減った。目標の七十キロまであと少しである。



 体重というものは普段あまり気にしないものである。不人気コンテンツである。水曜日の夜に自宅の体重計に電池を入れてみたけれども壊れていて体重を計ることができなかつた。ほんの十年前の製品である。体重計は買つた側も暫く体重を計つて飽きたら放つたらかしにしてしまうし、作る側も十年持たせようとは考えていないのであらう。精密な機器であるのに少しく気の毒である。



 木曜日の午後は久し振りに走つた。ランである。昔と異なり今は目標の無いランはできなくなつたけれども、大通りを通るバスを路地から目撃した場合はバスに追い付いて乗るという明確な目標があるからランできる。私は全力で歩道を走つたけれど、バス停に誰もおらずバスが止まらなかつたので、バスに追い付くことはできなかつた。まあ走つた分体重が減るからいいか。

 ふと前方を見ると道路工事をしているせいで先ほどのバスが交差点を通過できずに信号待ちをしている。その間に次のバス停まで走ればバスに追いつきそうである。私は歩道を走り出した。その途端にシヤツのポケツトに入れていたウオークマンが飛び出して、回転しながら車道の真ん中へ、バスの真下へ滑り込んでしまつた。鸚鵡貝は二枚貝?‥‥期せずして謎の台詞を口にしてしまう。何てことだ。



 バスの真下にあるウオークマンを捨て置くことも一瞬考えたけれども、ウオークマンが無いと歌の練習ができない。私はバスが動くのを待ち、片手を挙げて後続の車に停まつてもらつてウオークマンを拾つてから、バスを追つて歩道を走り出した。全力疾走である。全力疾走であるけれども、案の定バスに追い付くことはできなかつた。これが案の定というものである。



 次のバスは十二分後。よく頑張つたと自分を褒めながらさらに次のバス停まで歩いた。そもそも何故私は急ぐのか。急ぎの書類を市役所に届けた後、町田の午後三時からの用件に間に合うやうに移動しなければならないからである。町田市がもつと近ければこんなに急ぐ必要はない。町田市と私の事務所がある武蔵村山市とは、同じ多摩地域なのに互いに南北の果てにあり交通事情がよくないために、一時間掛けても着かないのである。



 十二分後に来たバスに乗り、市役所でバスを降りて無事に書類を届けた。最寄りのモノレールの駅へと歩いていると、乗ろうとしているモノレールが前の駅を出てこちらに向つて来るのが見える。またまたランである。ランランランである。今度は間に合つた。



 モノレールは多摩市にある終点の多摩センター駅で延伸が止まつており、惜しいところで町田市に届いていない。多摩センター駅から橋本駅を経由して町田駅に着くルートを選択したところ、良いタイミングで橋本駅に快速電車が来たので、予定より三十分早く町田駅に着いた。ランララランのお蔭である。

 三十分早く着いたら、走つたご褒美にバーガーキングでお腹一杯バーガーのワツパーを食べると決めていた。けれども町田駅に着く直前に、私は町田のバーガーキングが既に閉店していたことを思い出した。鸚鵡貝は二枚貝?いいえ、巻貝です。‥‥期せずして謎の問答をしてしまう。人は何故、想定外の事態が起きると鸚鵡貝のことを考えてしまうのだらうか。



 閉店したバーガーキングの下の階にはうどん屋があるけれども、ワツパーを食べると決めて既にワツパーの口になつてしまつている。さりとて走つて腹は減つたし時間も無い。仕方がないからうどんを食べやう。さう考えて下の階に降りてみたら、うどん屋が臨時休業していた。鸚鵡貝‥‥。体重が減るから、まあいいか。






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2025/5/16
文責:福武 功蔵