第32夜(2025年4月10日) 乗り過ごした


 釈迦の入滅の話をしたかつたのだけれど二日過ぎてしまつたので止める。今日は駅でツッコミどころの多い張り紙を見たのでその話をしやう。

 私の事務所の最寄り駅、仮にA駅とすると、このA駅は四月から無人駅になつてしまつた。おそらく駅員さんが辞めてしまつたのであらう。流行の退職サポートを利用したかもしれない。無人駅となつた後も自動改札で特に不便は無いから、それはそれでいい。

 A駅の手前にB駅があり、こちらは他の路線との乗り換え駅となつている。もちろん有人駅である。私が乗る電車の半分くらいはB駅止まりであり、十分後に出るA駅行きに乗り継ぐ必要がある。じやあB駅から事務所まで歩けばいいではないか、さう思われるかもしれない。私もさう思つて何度か歩いてみた。B駅から西へ真つ直ぐ伸びる道路を歩くとその途中でもう十分後の電車に追い越される。そこから事務所まで歩いてさらに二十分かかるので、結局は電車の方が早い。A駅から事務所は歩いて十二分から十三分くらい、だいたい歌を三曲歌つているうちに着くからである。疲れているときは歌わない。





 歌の練習の話ではなく、駅の張り紙の話であつた。その張り紙にはこう書いてある。



 当駅までの乗車券はお持ちですか。状況によりお手持ちの乗車券を確認させて頂く場合がございます。



 まあ当然といえば当然の話である。図が付いている。その図はぐるりと矢印が書いてあり、B駅までは定期券が有つても、B駅からA駅までの間と折り返しのA駅からB駅までの間は定期券が無いので、別途運賃が必要と書いてある。まあ当然といえば当然の話である。





 いやいやいや。ツッコミどころが多い。どこからツッコミを入れるのがいいのか迷うくらいに。



 まずはそんなやつおらんやろというツッコミだらうか。どうしてB駅まで定期券があるのに素直にB駅で降りず、わざわざA駅まで来て折り返しの電車でB駅へ戻るのだらうか。昔の暴走族で同じ所をぐるぐる回るローリング族というのが居たと聞くけれども、これはその類なのだらうか。いやいやいや。

 それともそもそもその乗り過ごしの問題は降車駅のB駅で問題にするべきであつて、折り返しのA駅の問題ではないだらうというツッコミか。あるいは無人駅なのだから、状況によりお手持ちの乗車券を確認させて頂く駅員がそもそもおらんやろというツッコミか。そもそもこんな張り紙必要かというツッコミか。ツッコミどころがあり過ぎて手が足りない状況である。



 一度冷静になつて考えてみる。全てが合理的だつたと仮定してみると、このやうになる。



 ローリング族のようにA駅とB駅をローリングする輩が跋扈しており、これを見咎めた正義感に溢れるA駅の駅員が厳重注意して張り紙を貼った。以降はローリング族は鳴りを潜め、A駅の駅員は喜んだのも束の間、やる事が減って燃え尽き症候群になつたせいで仕事に身が入らなくなり、退職サポートを利用して退職し、以降はA駅は無人駅になつた。



 どうだらうか。まあ、無いでは無いか。それはさうとして、久し振りに駄文を書いて楽しかつたのはいいけれど、急行電車への乗り換え駅を乗り過ごしてしまつて、各駅停車の電車で家路に向かつている。まあ、いつもの事か。






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2025/4/10
文責:福武 功蔵