第28夜(2025年2月19日) ピーク


 私にとつては初めてのことであるけれども、私を第三者委員に推薦したいという話があつた。至極光栄なことである。推薦する人を誰にするか議論した中で、思い付きのやうに私の名前が出たさうである。

 私としては人生のピークを迎えたと言つてもいい。私のやうな不規則発言、電車乗り過ごし、忘れ物多数、短期記憶無し(長期記憶も自信無し)のダメ人間を、第三者委員という名前からして公益の代表者のやうな光輝く地位に推薦したいというのである。思いがけないことであるし、うれしいことである。しばらく私は人生のピークに浮かれた。





 はつと思い当たることがあつた。裁判官の公募(法律家の中からの公募)に応じて私が年金目当てに裁判官になりたいと言つたときの、家の者の言葉である。



 絶対に止めておきなさい。向いていない。とにかく向いていない。



 じつさいにはずつと豊富な語彙で窘められたのであるけれどもそれは措く。私のことを最も良く知る家の者が、親切に私が躓かないやうに予め助言してくれたものであつた。そのことを私ははつきりと思い出した。



 私が第三者委員というのは、いかにも向いていない。いつも見当違いなことを考えたり宇宙のことや失われた第六感のことを考えたりしているものであるから、第六者委員あたりが適当であらう。





 わはは。第六者委員だつて。面白い。何をする委員なのか考えてみやうか。



 当事者がああだかうだと言つているところに、第三者委員が中立的な公益的な立場で貴重な意見を述べる。皆がおおと言つて第三者委員の発言を褒め讃える。ここまでが第三者委員の仕事であらう。

 第四者委員となると、さらに上を行かなければならない。今はそれでいいけれども未来はどうだ。過去の伝統は守られゆくのか。そのやうな時間軸を使つた発言をする。皆がおおと言う。

 第五者委員は全く別の価値観をもたらす。フランスではかうであるとか、マリ共和国ではかうでないとか、聞いている皆の度肝を抜いてイチから考え直させる役割である。皆はおおとは言わないだらうけれど、内心では舌を巻いていることであらう。

 ようやくここで第六者委員が登場する。お待たせしました。何を発言するべきか。やはり宇宙のことである。失われた第六感のことである。もはや当事者の間の言い合いなぞどうでもいい。全てを煙に巻く第六者委員の発言を聞いた当事者も互いに目を見合わせた後、揃って空を、宇宙を見上げる。宇宙は広く地球は丸い。そこには対立軸なぞ存在しない。



 ‥‥なんて、うまく行くわけないよなあ。うん。

 推薦の候補は他にも何人かいるということなので、私がじつさいに推薦される確率は低いでありませう。それでも、推薦したいという話を聞いただけで人生のピークを感じてしまつた、ダメ人間の夜でありました。






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2025/2/19
文責:福武 功蔵