第25夜(2025年1月13日) 希望


 きぼうは好きですか。好きです。見たいですか。見たいです。

 今日は、国際宇宙ステーシヨンきぼうが肉眼でも見えるというので、予定時刻の数分前である十八時十分にスマートフオンのアラームをかけておいた。一応断つておくと、国際宇宙ステーシヨンの名称がきぼうという名称なわけではなく、日本が開発・管轄している国際宇宙ステーシヨンのユニツト(部位)の名称がきぼうという名称らしい。まあそれはいいとして、以下では単にきぼうと呼ぶ。

 この耳寄りなニユースは、家の者が見つけて知らせてくれた。家の者に感謝である。最近は晴れの日が続き、大気が澄んでいて雲が少なく、東京の明るい空でも夜に星が見える。せっかくの機会だからぜひ見てみやうということになつた。



 ニユースでは、きぼうが通り過ぎるルートは、岩手県、新潟県、石川県、岡山県、愛媛県、宮崎県と、東京よりも北から西の方角を直線で通るということであつた。家の者のスマートフオンの小さな画面でそのニユースを見たので、きぼうの通り過ぎる向きについては判らなかつた。そこで家の者と私は、要するに北西の方角を見ればきぼうが見えるのだらうと考えた。

 きぼうの通り過ぎる速度についても、何も情報がないので、もしかすると流れ星のように一瞬で通り過ぎるのかもしれないと考えた。まあ、一瞬でもいい。きぼうは、マイナス二等星の明るさで輝いて見えるというのである。一等星で十分に明るいのだから、マイナス二等星はとつても明るいはずであり(反対に、六等星は暗い。)、きぼうを見逃すことはまずないだらうと考えていた。

 自宅の近くにはビルが建っているけれども、北西の方角はビルが建つていなくて開けている。これは確実にきぼうを見ることができるだらうな。家の者と私は、きぼうを見ることに大きな希望を抱いていた。



 何やかやでいろいろあつて、きぼうのことをすつかり忘れていた十八時十分。私のスマートフオンのアラームが鳴つた。私は部屋着のまま、コートを着て家の外に立つた。遅れて家の者もコートを着て外に出てくる。予想外のことが一つだけあつた。夜なので街灯が明るく、特に北西方向を見ると街灯の光が目を直撃してくる。目の前に手をかざすことで何とか直撃を免れることができた。

「大阪が十八時十四分、東京が十八時十五分だつて」家の者がきぼうの通過時刻を教えてくれる。時刻は十八時十四分になつていた。南西の空には明るい金星が見える。金星はマイナス四等星らしい。金星ほどではないにせよ、マイナス二等星のきぼうは明るいはずである。見逃すことはないだらう。

 さう、見逃すことはないだらう。見逃すはずは…



 時刻は十八時十六分になつたけれど、きぼうらしき光は全く見当たらない。空が曇つているのか?それとも、空のもつと低い位置なので見えないのだらうか。家の者は家の中へと帰つてしまつた。私ももう一分ほど外にいたけれども、あきらめて家の中へ帰つた。きぼうは、見えなかつたね。そう言つて、私と家の者は互いを慰めた。



 後で知つたのだけれど、きぼうは北西ではなく、南西の空の低い位置で見えたらしい。南西の方角はビルが建っているので自宅からは見えない方角である。

 一月の寒空の下、口を開けて空を見るおバカさん二人だつた。それを知つて私と家の者はしばらく笑い合つた。それにしてもどうして北西ではなく南西だつたのだらう?専門サイトがあつたので見てみると、きぼうは南から北へ向かつて日本列島を横切つており、どうやら今日は十八時十八分ころには北北西の空にきぼうが見えたらしい。惜しくもその前にあきらめて家の中へ帰つてしまつたわけだ。専門サイトによると、明日も十七時二十六分ころからきぼうは見えるらしい。

 さうだつたのか。明日に希望を持つて、今日は寝ることにしやうかな。






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2025/1/13
文責:福武 功蔵