先日、二十代の頃に住んでいた町を久方振りに訪れた。別の町で用事があつて、乗り換えの駅がその町の駅だつたので、用事を済ませた帰りにぶらりと寄つてみたのである。昔と比べて駅前が綺麗になつていた。目当ては当時通つたラーメン屋だつたのだけれど、定休日なのか閉まつていた。
商店街の方へ足を伸ばすと、建て替えられたのか、デパートのような大きなビルが建つている。近付いてみると、ボーリング場やゲームセンターなどの娯楽施設が複数入つたビルであつた。さういえば昔もここに平屋のゲームセンターがあつてよく通つたものである、懐かしさを感じてゲームセンターに入つてみた。
思い返してみれば、私はもうすつかりゲームをしなくなつた。ゲームセンターに通つていた当時は、バーチヤフアイターという対戦格闘ゲームが熱かつたのだけれど、バージヨン五の変更に付いて行けずにやらなくなつてしまつた。十年くらい前からは、リーグオブレジエンドという、五対五で行うインターネツト上の対戦陣取りゲームをするようになつたのだけれど、最近は専らプロの試合の観戦で満足してしまつている。
我ながらダメになつたなあと感慨に浸つていると、ゲームセンターの主が趣味で置いている古い筐体の中に、フアイナルフアイトというレトロゲームを見つけた。一プレイ百円とある。いやいや私が今更ゲームする訳がないじやないですか、ねえ。
チヤリーン。
やるんかい。
プレイヤーは忍者のガイ、一般人で市長の娘の恋人のコーデイー、肉体派市長のハガーから選べる。誰にしようかな、やつぱりハガーは動きが重いからなと考えながら、スーパーフアミコン版で容量の関係から搭載されなかった忍者のガイをセレクトしようとしたのだけれど、時間切れでセレクトに失敗して一般人のコーデイーになつた。まあいいか、頑張れコーデイー。
フアイナルフアイトは、超犯罪都市(ゲーム内では「ちようはんざいとし」)メトロシテイで、捕らわれた市長の娘を助けるために奮闘するゲームである。前後から次々に現れる敵を殴つたり蹴つたり投げ飛ばしたりする。
投げ飛ばすのはどうやるんだつたつけ、とレバーをガチヤガチヤしていたら敵に殴られて体力が減つてしまつた。でも肉を食べれば大丈夫、肉を食べるとコーデイーの体力は満タンまで回復するのである。ドラム缶を壊せばアイテムが出る。バンバンバン。これはコイン、これはガム、肉はどこだ。あつた、これで大丈夫。肉は大事だ。
敵を倒しに倒して、一面のボスまでたどり着いた。しかしボスの体当たりを食らったり、ボスが呼び出した手下たちの攻撃を受けたりして、コーデイーの体力は無くなってしまう。嗚呼無念。
と思つたら、コーデイーが体力満タンで復活。どうやら命のスペアがあつたようである。…命のスペアつて何だ。
残りの命のスペアは無いので、次にやられたら本当におしまいである。
慎重に、上下に動いて敵の挟み撃ちを食らわないようにして、殴る蹴る投げ飛ばす。ボスが呼び出した手下を全員倒して、ボスもダウンさせた。
しかし。ぴゅーうーい。ボスがまた口笛で手下を呼ぶ。今度は火を投げるやつまで呼びやがつた。挟み撃ちにされるコーデイー。多勢に無勢、嗚呼無念。一面クリアはならず、ゲームオーバー。
ゲームオーバーの画面では、椅子に縛られたコーデイーの目の前の机の上に、導火線が着火されたダイナマイトが置かれていて、コンテイニユーしないと爆発してしまう。コーデイーが首を振つて私に助けを求めている。
ごめんよコーデイー。
私は立ち去つた。ダイナマイトがどかんと爆発する。
ちようはんざいとしメトロシテイで、一般人が戦つて勝つことは難しい話である。
それにしてもすごい名称だな、ちようはんざいとし。