第6夜(2024年6月10日) よく蚊に刺される


 私は昔からよく蚊に刺される。昨晩も大変刺されて難儀した。テレビのコマーシヤルでやつている電池不要の蚊取り線香を用いてみたのだけれど、風が無い状態ではあまり蚊除けの成分が広がらないようである。旧来の加熱式の蚊取り線香の方がいいのかもしれない。



 刺す方の蚊は、どういう気持ちなんだらうか。血を吸うというのは、蚊だからそりやさうなんだろうけど、よく考えてみたらけつこう凶悪な話ではある。

 調べてみたら、蚊は普段は草花の蜜を吸つて生きているらしく、血を吸うのは雌の蚊だけで、卵を産むときの栄養の確保が目的なんださうだ。要はタンパク質の確保であり、江戸時代の病人が肉を食べていたのと同じ要領の合理的であらう。蚊は蜂のように人を殺したりはしない。必要に迫られて最小限の攻撃を加えるわけだから、許してやつてもいいように思われた。私は女性にモテるのはけつして嫌いではない。よく刺されるというのは、言葉を換えて言えばモテモテなのであるから、けつして悪い気はしない。

 痒くなるのは、蚊が血を吸うときに血止めの成分を注入するからなんださうだ。これはいかがなものか。こちらからすれば、中年男性の糖分・塩分・脂肪分を兼ね備えた栄養たつぷりの血を提供しているわけだから、見返りに、例えば気持ちの良くなる成分を入れてもらうとか、頭が良くなる成分を入れてもらうとかしてほしいものである。けれども、痒いところに手が届くという言葉があるように、蚊に刺されるというイベントには、一回痒くしておいてそこに手が届いて掻くと気持ちがいいということもあり、エンタメ性があるといえばある。すべからくエンタメというものは、いったん痒くしておいてから痒いところに手が届いて気持ちいいという理屈なのかもしれないから、エンタメ作家を目指している身としては、一々の痒さを論難せずに浩然の気を持つて学ばせて頂かなくてはならないのかもしれん。



 そういうわけだから、刺してもいいぞ。許す。…いや、一寸待つて、そんなに集まつてこないで、そんなに刺さないで、痒い痒い痒い、やつぱり前言撤回、さつきのなし。モテモテも度が過ぎると困る。知られざるモテモテの致死量が存在するのかも知らん。一日ひと刺しくらいにしてもらえないか。ダメか。仕様なのか。じやあ仕様がないか。

 良いオチが思い付かないから、爆発して終わるか。ドカーン。






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2024/6/10
文責:福武 功蔵