第2夜(2024年6月3日) お侍さんを辞めてみる


 東京のコンビニは外国人の人が数多く働いておられる。今日見かけたのは、名札に「くどう」(※仮名)と書いてあるけれど言葉のイントネーションから外国人の人と思われる店員。店主が外国人の人ばかり雇っているという批判を気にしたのか、店員が外国人の人扱いされるのがいやだと言ったのか。もしかすると本当に「くどう」さんなのかもしれないけれど。

 ちよつと吃驚したのが、別のコンビニで、外国語で仲良く談笑する店員と客。レジで談笑しながら客が手を裏に伸ばしてレジを操作して、現金を支払わずに昼食を買つている。おいおい。私は次の順番で角煮を買つて帰つたのだけれど、もやもやした気分になつた。

 考えてみると、コンビニは大層儲かつているのだから、もしも不正な会計だつたとしても、大勢に影響はないだろうと思われた。そもそも自分が損をしたわけでもなかろうに、何故に私はもやもやした気分になるのか、さらに考えていると、不正が嫌いなのだと思い当たる。私の先祖はどこかのご家老様だつたと聞く。先祖代々お侍さんだから、正義が好きで不正が嫌いなのだろうと思われた。じやあ、お侍さんを辞めてみようか。

 私は弁護士という「士」の付いた職業に就いて二十年近くになる。ひとかどのお侍さんを気取つてきたけれども、昨今の外国の戦争も円安も国内の物価の高騰も何ひとつ止められない無能振りに、ほとほと嫌気が差していたところでもあつた。これは一度、正義と刀を振りかざすようなお侍さんのいなかつた平安時代に戻るに限る。昔なら無念と言つて切腹だつたのかもしれないけれど、幸い切腹するような刀を持つていないので、切腹は勘弁してもらうことにする。



 平安時代に戻れば、先ほどの出来事はこのやうになる。

 こんびにの店員の相通じ合ひて昼代をくすねるなどわろし、見ている人がいいなあと申せばダメだよと言ひたるので、ちえつじやあいいですのごとし。



 いいよなあ。正義を振りかざしてカリカリしてしまうよりも、よほどゆつたりしている。

 ところで世の中には本当に悪い人がいるもので、今日テレビで見たのは、工事か何かで一度入つたことのある家に、今度は空き巣に入つたというもので、その件の犯人は当局に逮捕されたということだつたけれども、テレビではいかに空き巣被害を防ぐかというテーマで話をしていた。

 本当に悪い人に対しては、わろしなどと雅びに言つている場合ではない。ぶるぶると恐怖に震えるといい。エルレガーデンが歌つているように、寒い日に震えるのは当たり前なのだから、恐怖に震えるのも当たり前なのである。エルレガーデンは風の日には空を飛ぼうとしてみるそうだけれど、さうだな、私も羽ばたき式飛行機で空を飛んでみたいなあ。



 やうやう白くなりゆく山ぎは、少し明かりて、紫だちたる雲の、はげしくたなびきたる風の強ひ日に、羽ばたき式飛行機で空を飛ばうとするのは、をかし。



 羽ばたき式飛行機は見た目は優雅だけれど、動力、翼、伝達機構のどれもが非効率で実用化が遅れており、羽ばたき式飛行機に乗りたいと思うなら自分で開発するしかない。私も、開発しようしようと思つてから十年以上もの時が経つてしまつた。

 この間のドローンの技術進化は目覚ましく、来年の大阪万博では早くも実用レベルのドローン式の空飛ぶ自動車がお披露目されるらしい。



 羽ばたき式が、いつの間にかドローン式に完全に負けてしまつているのは、をかし。

 オチはええんかこれで。






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2024/6/3
文責:福武 功蔵