日本の歴史にも、ジェノサイド(皆殺し)は存在しました。
存在したというだけでなく、数多く存在しました。
おそらく、「寄生獣」で有名な原作者、岩明均先生が描きたかったものは、この厳然たる事実なのだと思います。
ひとは日々、戦っています。
生物の営みは選択の末の勝利であり、それはひとも変わるところがありません。
平和を感じるのは、戦争が終わったことが分かるとき。歳月を経た廃墟に安寧を感じるのは、そこで行われた、業深い営みがすべて終わったことが分かるから。
閉じられた本のように。日本の国内にはいくつもの城や城趾があり、いくつもの物語が後に続くことなく閉じられたことが分かります。
「レイリ」は、戦国大名・武田氏の滅亡を描いた作品であり、最後の当主である武田勝頼に好印象を持つことができるように描かれています。
息子である武田信勝が父・勝頼を励ますシーンは、単に励ましているだけではなく、世の中の真実を衝いていると思います。
―ひとは失敗することで、他人の痛みや苦しみを理解することができるようになります。
失敗した者にこそ、次に向かって進んでほしい。
最後に勝つのにふさわしいのは、他人の痛みを理解しない天才ではなく、失敗しながらも一歩ずつ歩を進めた努力家なのだ、と。
―戦国時代を制して江戸幕府を開いたのは、努力家の徳川家康でした。
失敗を積み重ねないと成功できない、不幸を知らないと幸せになれない、困窮しないと才能は生まれない―私も50年生きてきましたが、理論ではなく、経験として、これらは世の中の真実だと思います。
家族を殺されて死にたがりになっていた主人公のレイリが、死にたがりをやめるシーンも、印象的です。
多くの人に助けられて生き延びたことで、自分が今まで多くの人にいとおしまれてきたことに気付き、自分をいとおしむことを知ったレイリ。
自分をいとおしんだ先に、人をいとおしむことも―
レイリは女性で剣豪で死にたがりという強烈なキャラクターでしたが、死にたがりでなくなったレイリには、大人の魅力が出てきたように思います。
史実から解き放たれた、レイリの自由な活躍を描いた続編を見てみたいものです。