第29回 カタールワールドカップの巻


 カタールワールドカップは、カタールというサッカーの世界では小国である国で開催された、初めてのワールドカップでした。サッカー文化を世界へより広く広めることに挑戦したワールドカップということができます。

 カタールのチームは、初のワールドカップ挑戦で、未知の重圧に苦しみ、本来の力を発揮することができなかったように思います。その姿は、日本が挑戦した最初のワールドカップであるフランスワールドカップ(3戦全敗)を思い起こさせました。しかし、カタールが日本を決勝で下して(3対1の完勝)2019年のアジア杯王者となり、開催国として十分な準備を行って大会を迎えたことは、喜ばしいことです。



 カタールワールドカップは、サッカー日本代表の挑戦にとって、極めて意義深い大会になりました。

 長年の夢がかなった大会になったのです。



 漫画のキャプテン翼は、週刊少年ジャンプで1981年に連載開始したサッカー漫画です。

 作者の高橋陽一先生は、ジャンプの他の連載作品との兼ね合いから、独自の路線を見付ける必要があり、サッカー漫画にたどり着いたというお話をしておられました。

 当時、日本にはプロリーグはなく、ワールドカップ出場経験もなく、1968年のメキシコオリンピック(当時はアマチュアの大会)の銅メダルだけが輝いていたという状況でした。

 キャプテン翼は、日本の当時の状況とは無関係に、漫画らしく夢を追い、大空翼と岬太郎という抜群のコンビが次々と強豪をなぎ倒し、倒された強豪の有力選手を味方に付けたユースチームは世界と互角に渡り合うという、とっても楽しい内容です。アニメ化され、「ダッシュ、ダッシュ、ダッシュ」で始まる主題歌と一緒に広く知られるようになり、アニメはさらに世界へと広がって多くのサッカー少年たちに愛されました。



 サッカーの日本代表が世界と対等に渡り合うなんて、それは漫画の中だけのお話―おそらく作者の高橋陽一先生も、連載当時はそのように思われていたことでしょう。

 しかし、日本にバブル景気が訪れ、1993年にプロリーグであるJリーグが誕生すると、日本代表も強くなり、1998年のフランスワールドカップに初出場を果たすと、2002年韓国・日本共催ワールドカップではベスト16に進出し、その後も連続出場を続けます。中田英寿、中村俊輔と小野伸二を擁した2006年ドイツワールドカップ、長谷部誠、本田圭佑と香川真司を擁した2014年ブラジルワールドカップは、いずれも大きな期待を集めながらグループリーグで敗退してしまいましたが、その他の大会ではグループリーグを突破して16強まで進みました。日本代表は、まずまず安定した強さを身に付けてきたのです。

 しかし、世界に8か国しかないワールドカップ優勝経験国に対しては、一度も勝てたことがなく、そこには歴然とした差がありました。



 カタールワールドカップでは、抽選の結果、日本と同じグループにワールドカップ優勝経験国であるドイツとスペインが入りました。

 一度も勝てたことのない相手―そのときから日本代表の挑戦が始まりました。

 そして夢が、かなったのです。



 夢は、ふたつ、かないました。ひとつは、日本代表に頼れるディフェンスヒーローが現れたことです。

 類い希なスプリント能力でボールを前線で追い続けるFW前田大然、ブンデスリーガデュエル王のMF遠藤航、若くしてプレミアリーグで名を轟かせるDF冨安健洋は、世界トップクラスのレベルにある選手であり、その他の選手も皆が高い守備力を持っていました。

 日本代表は、キャプテンのCB吉田麻也、ムードメーカーのSB長友佑都の下で互いの力を合わせて、全試合において失点を1で止めることに成功しました。



 もうひとつ、かなった夢。それは、キャプテン翼の登場人物たちが、漫画を超える勢いでリアルに躍動したことです。

 ドイツ戦では、0−1の後半12分に、満を持して翼くんと、立花兄弟の兄が登場します。

 翼くんのドリブルは、ドイツの選手でも止めることができず、翼くんのスルーパスが味方のシュートにつながります。ドイツのGKが弾いたボールは、貪欲にこぼれ球を狙っていた日向小次郎の前に転がり、このチャンスを逃さず、日向小次郎が同点ゴールを決めます。

 今大会の日本代表初ゴールです。控え選手も含め、歓喜の輪を作って一気に盛り上がる日本代表の選手たち。

 その8分後、立花兄弟の兄が、セットプレーの際に相手の隙を突いて単独で裏へと抜け出すと、狭いニアサイドでGKの肩口を抜く見事な逆転ゴールを決めました。

 2−1の逆転勝利です。次々と攻撃的なカードを切った監督の交代策も見事でした。



 スペイン戦では、0−1の後半開始から翼くんと日向小次郎が登場。

 翼くんの左サイドから始まったチーム全体でのハイプレスが、ボールをつなごうとするスペインに対し、きれいにはまります。苦しくなったスペインのGKが蹴り出したボールを右サイドで奪い、見事なトラップでボールを収めた日向小次郎が豪快なシュートをネットに突き刺して同点ゴールを決めると、会場の雰囲気が一変しました。

 その3分後、再び日向小次郎がボールを持ってペナルティエリア内で前を向くと、今度はクロスを選択。そのクロスを翼くんがゴールラインぎりぎりで左足に当てて折り返し、飛び込んだ岬くんがボールを押し込んで逆転ゴールを決めました。

 またまた2−1の逆転勝利。



 説明不要かもしれませんが一応説明すると、翼くんは三苫薫、岬くんはその幼なじみの田中碧、日向小次郎は野心に満ちた堂安律、立花兄弟の兄は、弟もプロ選手の浅野拓磨です(私なりのあてはめなので、お許しください。)。

 本当に漫画を超える勢いの活躍で、長年の夢をかなえてくれました。



 ベスト8を目指したクロアチア戦では、PK戦で敗れましたが、日本代表は、ワールドカップ優勝経験国を倒すという大きな階段を上りました。

 次の目標は、サッカー強国を目指すことになることでしょう。

 中田英寿、中村俊輔と小野伸二を擁した2006年ドイツワールドカップ、長谷部誠、本田圭佑と香川真司を擁した2014年ブラジルワールドカップのチームのように、どのような相手に対しても攻撃スタイルを崩さずに3点以上を取って勝ちきることを目指す、そのようなサッカーです。

 道は険しいですが、そのようなサッカーでなければワールドカップで優勝することは難しいこと、優勝を目指すことで初めてベスト8へ行くことができること―これもまた、ベスト8にアジアのチームが1チームも残れなかったカタールワールドカップが示している、サッカーの現実だと思うのです。

 がんばれ、ニッポン!




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2022/12/8
文責:福武 功蔵