鈴木忠平「嫌われた監督」を読みました。土曜日に買って日曜日の昼に読み終えた。このような読書体験は(推理小説を除けば)村上春樹以来のことでした。
タイトルが良いと言われています。連載先の週刊文春の人が付けたタイトルだそうですが、そうだとすると作者の鈴木忠平がそれを上手く利用したということなのでしょうか。この作品は、嫌われた監督と、もがき苦しむ選手たちとの間に生まれた、きずなの物語なのです。
人生で、あなたは何に価値を見い出しますか?よく問われる質問です。
私は、きずな、と答えます。私にとってはファイナルアンサーです。
きずなが生まれるには時間がかかります。近い言葉として、同期、同僚、同級生という言葉があります。同じ時間を同じ場所で一定以上過ごすことで生まれるものなのです。
もちろん友人、家族もきずなですが、好悪の感情が無くてもきずなは生まれるのです。この作品は、好悪の感情を一切排したところに深いきずなが自覚された瞬間を、見事に描ききっています。
私が一気に読み終えることができた理由のひとつに、登場人物のほぼ全員を、当時の野球ニュースで知っていたこともあります。この作品は、作者を含めたリアルな群像劇になっています。
NHKの大河ドラマの影響なのかもしれませんが、日本人は群像劇が好きだと言われています。なぜだろうかと考えたとき、やはり皆、群像の中に生まれる、きずなが好きなのでしょうという結論を得ました。
お金でも名誉でもない。きずななのであります。