第50回 風景 壱の巻


 朝9時から身寄りのない人の葬儀だったので、早起きして朝食を食べようと思って定食屋へ。中は10人くらいの客が入り全員男。店員は一人、外国人のようだった。

 新型コロナウイルスが脅威となっており街中の人がマスク姿の日々だったが店内では誰もマスクしていない。私もマスク代わりのネックウォーマーを外した。

 座ると店員が水を持ってきてくれたので食券を渡す。キムチカルビ丼と半熟卵。私はいつもこれを食べる。

 特にやることがなかったのでただ座っていたら、背後の入口ドアあたりでブーンと音がする。かなりの高音量だ。何か壊れているのかと思ったがそうではない。表通りをトラックが走り、その振動が伝わってくる。振動で鳴っているかと思ったがトラックが走っていないときもブーンと音がする。音は鳴り止まない。

 店内を見渡すと設備が少しずつ古びているのが分かった。避けられない老朽化だ。朝7時とまずまず込む時間帯なのに店員は一人、それも外国人。施設の老朽化、人手不足、店のオーナーも苦しいのだろう。

 店員は若者で手際よくオーダーをこなしていた。みそ汁を機械で入れている間も冷蔵庫から出来合いの納豆などを取り出して膳に並べる。店員が隣の客に朝定食を持ってきたとき、その客が何か言っていたが私には聞きとれなかった。客はよく見たら女性だった。すぐに店員が水を持ってきたので、水がなかったのだろう。店員が他の客にも料理を出していく。途中で朝定食を私に持ってきたのでちがうと言ったら、二つ隣の客の朝定食だった。若者は非常に手際がよい。私がぼーっとしている間にもう次の客に料理を出している。一人で全てをこなしているのだ。私は少し感心した。

 6人分くらいの料理を出し終わってから、店員が私のキムチカルビ丼と卵を持って来た。店員は真面目な目でお待たせしましたと言った。私は礼を言って食べ始める。いつもながら美味い。

 私の後に誰も入ってきていなかったが、ここでようやく一人入ってくる。ドアが開いたときにブーンという音が止まった。どうやらドアが何かに共鳴して音が鳴っていたようだ。

 客の一人がごちそうさんと言って席を立った。店員はありがとうございましたと答える。私が引き続き食べていると、店員が小銭を持ってきた。真面目な目をしている。先ほど間違えたからお詫びなのか、もしかして遅くなったからお詫びなのか、よく分からないが私は突き返す。すると二つ隣の客がこちらだと言った。その客が千円札で何か買ったお釣りなのだろう。私とその客は眼鏡をかけていて顔が四角いのが共通しているから、店員は間違えたのだと合点がいった。

 客が帰った後の食器を店員がまとめて下げて洗っている。よく一人でこなしているものだ。私は感心して、まあさすがに返答はないだろうと思いながらごちそうさまでしたと言って店を出た。店を出たところで振り返ると、店員が洗い場から律儀に顔を出してありがとうございましたと言ってくれていた。真面目な目をしており笑顔はなかった。ずっと店員に笑顔はなかった。

 


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2020/3/3
文責:福武 功蔵