家に帰るときのことでした。
 車両点検だとかで電車がたいへん遅れてきたので、
 休日だというのにホームには電車を待つ人があふれていました。
 だいぶ待たされた後ようやく電車が到着し、わたしも乗り込んだのですが、
 どうしたわけかいつまでたっても電車のドアが閉まりません。
「3号車付近で、お客様の荷物が降車側と反対側のドアにはさまっているため、
 ただいま運転を見合わせております」というアナウンス。
 …5分以上が経ちました。
 そろそろ確認が取れたのでしょうか。
 それにしてもまったく、はさまれているのはどこの誰なのでしょうか。
 そう思っていると、開いたままのドアの前に駅員さんが駆けつけてきました。
 同時に「ここです」と電車内から女性の声。
 混んでいたので気付かなかったのですが、
 はさまっていた人は、わたしから2メートル程のところにいました。
 …早く言えー。ちなみに3号車ではありませんでした。
 はさまっていたのは声を上げた女性ではなく、大柄なアジア系の男性でした。
 たくさんの荷物を持っており、肩から提げた紙袋がドアにはさまれていました。
 日本語はできないようです。そうか、それで助けが呼べなかったのか。
 少し納得。
 駅員さんが非常用レバーを使ってドアを少し開けて紙袋を引き出すと、
 大柄な男性は助かったといった風でそそくさと電車から降りました。
 これはまあ仕方ありませんね。
 
 と、先ほどの女性も一緒に降りました。
 …連れだったのかー。
 ならもっと早く言えー。
 …気を取り直して電車が発車しました。
 しかし数駅後、駅から発車した直後に急停車。
 もう本当に何事かと思うような、急停車の中の急停車でした。
「駅ホームの非常停止ボタンが押されました。ただいま安全の確認を行っております」
 とのアナウンス。しばらくして、
「お客様の荷物がドアにはさまっていたため非常停止ボタンが押されました」
 …またかー。
 
 運転再開後の最初の電車なので、
 どの駅でも電車に乗りたい人が多くて、
 はさまれまくっている模様であります。
 困ったことであります。
 
 …予定よりも数十分遅れてようやく家の最寄りの駅に着きました。
 電車から降りてホームを歩いていたら、
 ドアが閉まろうとしているのに、
 ゆっくりした動きで混んだ電車に乗ろうとしている長身の女性が目につきました。
 ドアの上の縁に手をかけて片足ずつ電車に乗り、ぎゅうぎゅうの車内へ何とか体を押し込もうとしていますが、
 車内に空いている空間があまりないのと、無理に体を押し込むことに抵抗感もあったのでしょう、
 ドアが閉まりかけているというのに、あまりにもゆっくりとした動作でした。
 …案の定、女性のコートはドアにはさまれてしまいました。
 もうこれは案の定としか言えません。
 電車は走り出し、よく見るとコートだけでなく、長い髪もがっちりとドアにはさまれてしまった女性は、
 助けを求めるような目をしながら運ばれてゆきます。
 たしか次の駅ではそのドアは開かない…
 また駅員がドアを開けに来る騒ぎになるでしょう。
 これにはわたしも、心の中で叫びました。
 …あほかー、と。
 翌日。
 混んだ電車にリュックサックを背負って乗るはめになったわたしが、
 ドアにリュックをはさまれないよう気をつけたことは言うまでもありません…皆様気をつけましょう。