第18回 フィールド・オブ・ドリームスの巻


 大学の学生時代、先輩から「フィールド・オブ・ドリームス」という映画が良いと教わって、見たことがありました。

 良い映画であることは間違いなく、わたしは涙したのですが、果たして他の人がどう思っているのかは少し疑問に思うのです。

 話は、主人公が野球場を作ったらそこに幽霊が出たというものです。

 わたしは、小学校からサッカーをしていて、高校だけ野球部に入りました。

 勧誘に来た先輩がポテトチップスの袋を置いていったからです。

 食べ物につられたというよりは、一杯のかけそばならぬひと袋のポテトチップスに義理を感じてしまったのと、

 もしかしたら自分も甲子園のエースになれるのではないかとお門違いな妄想を抱いたからでした。

 もちろんそんな甘い世界ではなく、わたしは県予選大会をベンチで終えました。

 野球部に入ったのは、中学校のときのサッカーが楽しくなかったというのもあったのかもしれません。

 ひたすら走るばかりで(そのおかげで体は鍛えられたのですが)ゲームをすることがありませんでした。人数が多すぎたのかもしれませんが。

 高校の野球もわたしにとっては楽しいということはなく、ただただ修行でした。

 わたしは最初満足にボールを投げることもできず、打撃フォームも自己流で何とか当てていた状態でした。

 ボール投げは練習を繰り返すうちに肘を痛めたし、打撃フォームは理論に則った改良を加えるたびにボールに当たらなくなっていきました。

 だからわたしが「フィールド・オブ・ドリームス」に涙したのは、映画に出てきた幽霊が、ただただ楽しそうに野球をしていたからでした

 (幽霊になってまで野球がしたかったのですから)。

 ああ、野球ってこんなに楽しいものだったんだな、わたしは取り返しのつかない間違いをしていたのだな―そう思って涙したのです。

 これって他の人が涙する理由とはだいぶちがうのではないかと思います。

 ところで先輩が教えてくれたもう一つの良い映画は「ニュー・シネマ・パラダイス」でしたが、こちらはまだ見ていないのです。




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2012/11/18
文責:福武 功蔵