新海誠監督の名作アニメーシヨン「秒速五センチメートル」が実写映画化されると宣伝されており、雑誌でも特集が組まれていたので記事を読んだ。大変興味を惹かれる。
 しかしながら、名作をまだ見ていない私には、何が秒速五センチメートルなのかが判らなかつた。特集記事にもこの点の解説はなかつた。
 私が悩んでいると、家の者が私に助言してくれた。
 「何かが、秒速五センチメートルで、動くんじやないの?」
 おお、さういう事か。
 秒速五センチメートル。私は計算してみた。六十を乗じて、分速三メートル。さらに六十を乗じて、時速百八十メートル。つまり時速〇・一八キロメートル。‥‥かなり遅いな。
 一体何が、時速〇・一八キロメートルで動くのだらうか。さうしてその物体は、どのやうに物語と関連するのだらうか。
 遅く動くものといえば亀が思い当たる。インターネットで調べてみると、叡合が、一般的な亀の歩行速度は時速〇・三二キロメートルと教えてくれた。一般的とはどういうことをいうのだらう。小さな亀ならもつと遅いかもしれない。いや、逆に身体が軽い分、速いかもしれない。疑問が増える。もし小さな亀だつたとして、その速度で物語を書くのは難しそうでもある。
 私は考えに考えた。けれども、全然判らなかつた。
 「何が動くのか、全然判らないよ」
 さう私が家の者に言つて、笑いかけたところで‥‥急に閃いた。
 たしか月が、少しずつ地球から遠ざかつているという話を聞いたことがある。
 少しずつ、少しずつ。これなのではないか?
 月なら、何らかしらのロマンスが感じられる。おお、これに違いない。
 インターネツトで調べてみた。月が地球から遠ざかる速さは‥‥
 一年間で約八・三センチメートル。
 うん。ちがつた。
 閑話休題。
 新海誠監督の名作アニメーション映画「君の名は。」を観る前に、既にこの映画を観た姪つ子に、映画の感想を尋ねたことがあつた。
 ネタバレにならないように気を付けてと言つて尋ねたら、
「三年ずれてる!」と姪つ子。
 うん?何が三年ずれているのだらう?
 映画を鑑賞し終わつてから、姪つ子の感想はじつに適切だつたなと、私と家の者は言い合つたものだつた。ネタバレにならない範囲での、映画への興味を惹き立てるやうな言葉。
 秒速五センチメートルという言葉も、そのやうな言葉なのだらうな。
 二週間後、ようやく「秒速五センチメートル」の実写映画を観ることができた。
 ダメ人間ながらもダメ人間なりに感動した。特に最後のシーンがいいなあ。