第73回 チョコボールを助けた話の巻


 京王線南大沢駅の下りエスカレーター。時刻は午前10時、人は少ない。

 エスカレーターを下りると、エスカレーターの一番下の段で、虫がもぞもぞと動いているのに気が付きました。ゴキブリなのかカナブンなのか分からない、そのくらいの大きさの茶色い虫です。

 虫はエスカレーターの一番下の段と、エスカレーターの金属の板が吸い込まれていく金具との間でもぞもぞと動いています。前方へ動いて脱出できそうになりますが、エスカレーターの次の段が来るタイミングで大きく後方へ飛ばされてしまい、また前方へ頑張って動くということを繰り返していて、なかなか脱出できないでいます。不憫に思い、なんとか助けようと思いました。

 エスカレーターの金属の板の吸い込み口は危ないと聞いたことがあります。柔らかい靴の先端がこの吸い込み口に吸い込まれて怪我をした人がいるという話です。私は考えて、丈夫な弁護士日誌を鞄から取り出して右手に持ちました。この弁護士日誌で虫を助けようと思ったのです。



 私が身構えると、ちょうど虫は気力を失ったのか、動かなくなってしまいました。エレベーターの金属の板の動きに従って、ころころと横回転で転がっているだけであります。

 おい、頑張れ、今助けるぞ!と心の中で叫び、私は弁護士日誌で虫を掻き出しました。一度でうまくいかず、二度目で掻き出すことに成功しました。



 虫は元気に、ありがとうございますとばかりに動き出すと思ったのですが、全く動きません。

 おい、死んでしまったのか?と思って近くに寄ってよくよく見ると、

 虫ではなくて、大粒のチョコボールでした。



 …結局、朝からチョコボールを助けた話でした。足が生えていると思ったのは、視力の悪い私の思い込みだったようです。

 ちなみにチョコボールは助け出したその場に放置しました。駅の清掃の人が普通に清掃して下さったものと思います。


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2022/7/15
文責:福武 功蔵